藤本先生「バイオマス発電」を知る

 日本では長い歴史の中であらゆる用途で木材を利用してきました。
そのため、日常的に木を消費し、安定供給のために植林をしてきました。

ところが、一次エネルギーの主役が化石燃料へと移行し、
化学工業が発展すると、一気に木材需要が低下していきました。

これに追い打ちをかけるように、安価な輸入木材が輸入されるようになると、
林業そのものが成立しないようになっていきました。

ここで新たな問題となっているのが、相次ぐ大規模災害や、
歯止めが効かない獣害の増加です。

「里山」という言葉がありますが、森林はある程度の手入れが必要です。
これは良質な木を育てるだけはなく、防災や生物多様性の観点からも重要です。

そうした時代にあって、現在注目されているのが「木質バイオマス発電」です。

木質バイオマス発電とは再生可能エネルギーの一つで、
ざっくりと説明すると、木材を燃料に発電できる方法です。


今回は詳しい説明は省きますが、木材を破砕機で木質チップに加工し、
直接燃焼させてタービンを回すことで、発電させることができます。

基本的には木を燃やしてエネルギーを得るという方法なのですが、
温室効果ガスの関係では、「カーボンニュートラル」であるとされています。

要するに、燃焼時のCO2排出量が、光合成によるCO2吸収量で相殺されるので、
結果的には「ニュートラル(中立)」であるのでセーフ...と説明されています。

木質バイオマス発電は電力自給率を高めつつ、森林問題を解決できる方法として、
特に日本では、非常に高い期待がかけられている発電方法です。

ということで...前置きが長くなりましたが...
今回は生野工業団地にある木質バイオマス発電所を訪問してきました。


このバイオマス発電所は、兵庫県、朝来市、兵庫みどり公社、関西電力、
そして、兵庫県森林組合連合会の5者による協働事業として展開されています。

県下の森林組合等が木材を供給し、森林組合連合会が木材のチップ化を行い、
関西電力グループが発電機を稼働させて電力を発生させるという仕組みで動いています。

再生可能エネルギーの普及・拡大を図りたい関西電力と、兵庫県林業の活性化を目指す
森林組合連合会の意向が合致したということで、事業が始まったそうです。

生野工業団地にバイオマス発電所が建設された理由は…

1.発電に必要な「冷却水が豊富にあること」
2.「発電した電気を送電する高圧線までの接続距離が短いこと」

の2つの条件だったそうです。

一応、聞いてみたのですが...木材運搬の車両は一般的には地道を使うため、
バイオマス発電所に関しても高速道路のメリットは感じていないとか...。

ちなみに...発電される電力量は朝来市の家庭のほぼ全体を賄えるほど...
という話ですが、実際には朝来市の家庭に電力が供給されているわけではないそうです。

さて、そんな日本の林業と森林を支えつつ、電力問題も解決し得る存在として、
木質バイオマスの実態はどうなっているのでしょうか?

結論から言うと、残念ながら...当初の計画通りには行っていない...そうです。
その理由を聞いてみると、色々と深刻な事情が見えてきました。

まず、根本的な問題として肝心の木材が不足しているという問題があります。
木質バイオマス発電所が増えたことで木材の取り合いが起きているようです。

伐採には収穫のための「主伐」と保全のための「間伐」に分けられますが、
間伐時に伐採されながら搬出されず、
林地に残されたままになっている未利用木材が多く発生していました。

そこで、「FIT制度」と呼ばれる制度によって、未利用木材を固定価格で買い取り、
間伐を促進させることが期待されていたのですが...。

発電所によっては、空き家の取り壊しによって出た廃材を使ったり、
中には燃料となる木材を輸入している発電所も存在しているそうです。

日本の人工林の多くは既に主伐の時期に来ているにも関わらず、
単価が低く、需要も停滞しているため、輸入せざるを得ないのが実情です。

FIT制度は非常に良い制度ですが、裏目に出ている側面もあり、
輸入することで海外への資金流出という、別の問題にもなっています。

ちなみに、生野工業団地の木質バイオマス発電所に関しては、
森林保全が前提なので、間伐材のみの原則が徹底されているとのことです。


2つ目の問題は人材不足に関わる問題です。

日本の人工林は海外と比較して急峻な斜面にあり、
海外と比較して大規模な機械化や集約化が困難です。

そのため、今でも人力での作業が多く、
現場での作業では非常に多くの危険も伴います。

賃金に関しても、不採算産業ということもあって、
仕事の危険度や労働の大変さに対して低賃金であるという問題もあります。

そうした問題もあって、林業従事者は慢性的に不足状態が続いていて、
木質バイオマスの需要があったとしても、伐採が間に合わない状態にあります。

以前、生野町森林組合では女性の林業参画の可能性を伺ったことがありましたが、
危険性や力仕事が多いことから、女性の参入も簡単ではないということでした。

数名のチームの中に女性が一人だけ入ることに対しては、
力仕事や危険度の高い仕事を振りにくい、という現場の反応もあるようです。

現段階では女性だけのチームを組むことで回避できる問題もありそうですが、
少なくとも、性別を問わず、安心と安全が大きな課題となっています。

この問題はいずれ、ジェンダーギャップの問題を扱う際にも、
改めて、視野に入れて考えていきたい問題だと思いました。

ところで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響はどうだったのでしょうか?

ここで列挙した問題と課題は慢性的な問題でしたが、
コロナ禍では様々な問題が突発的に発生しました。

まず、2020年度の状況は...というと、建築業界が全体的に停滞したため、
建材の値段が暴落し、そうした建材用の木材が木質バイオマスに集中したそうです。

ところが、2021年度になると状況は一転し、今度は木材が不足しているそうです。
市場価格もコロナ禍前後で1.5〜2倍ほどの差があるとのこと...非常に不安定です。

さて、ここまでの話を総合すると、良い側面が見えてこないように見えますが、
木質バイオマス発電は発展段階にあって、将来性は十分にあるように思います。

まずは、森林保全の問題について考慮する必要があります。

間伐材を山に切り捨てると、土砂災害で流れ出る可能性あり、
防災の観点からは適切に処理されることが望ましいのです。

木質バイオマスが普及することによって、間伐材に一定の価値が生まれ、
間伐を終えた後に残されている未利用木材が回収されることになったのは
大きな意味があります。

一度、大規模災害が発生すると、その復旧作業には莫大な費用がかかります。
森林保全を進めることで、その費用を抑えることができると考えることもできます。

次に、木材価格の安定化の側面です。
木材は建築用材、合板用材、木質チップ用材の順で価格が下がります。

以前は、最も低ランクの木質チップ用材の価値が底無し状態でしたが、
FIT制度によって底支えされることとなり、必要以上の値崩れが防げています。

もちろん、林業は補助金に頼らざるを得ない状態が続いている以上、
産業としては健全な段階には至っていません。

しかしながら、FIT制度によって林業をとりまく状況に変化が生まれつつあります。
この間に、林業の機械化、人材育成、発電炉の燃焼効率の向上、なども見込めます。

今回、お話を伺った兵庫県森林組合連合会の高田さんには、
色々と裏事情も含めて、詳しく解説していただきました。

非常に良い勉強をすることができました。
改めて、感謝したいと思います。ありがとうございました。

木質バイオマスの将来性も含めて、
今後も見守っていきたいと思います。

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